八甲田山死の彷徨

八甲田山死の彷徨 (新潮文庫)

八甲田山死の彷徨 (新潮文庫)

1902年に実際に起こった日本陸軍八甲田山の冬期訓練中の遭難で参加者210名中199名が死亡するという悲惨な事件を題材にした小説。
私が入会しているQuaSTom 高品質ソフトウェア技術交流会 – QuaSTomは、ソフトウェアと品質を楽しく真面目に語り合う場です。のPM分科会で話題になっている書籍で、企業研修に使われることが多いらしい。
リスクマネジメントやリーダーシップのことを学ぶためのまさに”生きた”書籍。
小説ということで登場人物の名前は実際と違っていたり一部フィクションも含まれているが実話をベースにしていることから迫力が違う。
この訓練には2隊が参加しており、1隊は全員帰還という成功をおさめたが、もう1隊は上記のような悲惨な結果になったことから、成功と失敗の比較もできる。
小説としても面白い(1日で一気読みしてしまった)し、非常に勉強になるし、これは超オススメ。


推理小説ではないのでネタバレってことはないのだが、俺が感じたことをあげると。
#一応、行をあけておく。










失敗理由

  • 本来の指揮官の上役が訓練に参加してきて、そいつが指揮権を奪ってしまったこと。それだけならまだしもそいつが冬山をなめていたものだからことごとく間違った判断をしてしまったこと。

これは現在でもよくあるのではないだろうか。へんにプライドがあるため部下を信頼して任せることができず、全部自分で決めてしまおうとする奴。

  • しゃしゃり出てきた上役に対して文句も言わずに従ってしまった本来の指揮官

軍隊は上下関係がすごそうなのは想像できるので文句を言いたくても言えなかったというのは理解できるが・・・。
また、この指揮官は平民出で異例の出世をとげた人で非常に優秀ではあったが、上には逆らわないという処世術にも長けていたおかげで余計、文句を言えなかったんじゃないかな。
でも、命がかかっているからね。言うべき時は言わないと。

  • 準備不足

これも痛かった。もう1つの部隊が先に出発していたものだから、あわてて準備して出発してしまった。
おかげで参加者の中には登山旅行程度にしか考えていなかったものもいた。

成功理由

  • 事前計画、準備の徹底

失敗した側と比べるとやはり際立っていたように見える。
今、読んでいるPMの本にも1行目に
"The easiest way to start a project wrong is to just start."(ダメなプロジェクトを始める一番簡単な方法はただ始めること)
とある。無計画ではダメってことだ。

  • 指揮官の厳しい態度

この隊の指揮官は普段は豪傑だそうだが、この訓練中はまさに指揮官としての態度を徹底していた。
なぜ、そうだったのかということは本書には記載されていない(読み落としていなければ)が、部下の命を預かる身としては、ちゃらけた気持ちではいられなかったということではないだろうか。
それにちょっとした気のゆるみがすぐ命を落とすはめにつながりかねない。
ただ、現在のプロジェクトではこのような厳しい人は受けないだろう。この隊でも指揮官に反感を持った部下がいた。

  • 人を信頼する

この指揮官は冬山を自分たちだけで乗り切るのは無理と当初から考えており、行く先々で地元の案内人をつけることにしていた。
部下の「案内人に過当な期待をかけていいものでしょうか」という言葉に対して、
「将校たる者は、その人間が信用できるかどうか見極めるだけの能力がなければならない。・・・他人を信ずることのできない者は自分自身をも見失ってしまうものだ」と返し、案内人に全面の信頼をおいていた。
かたや、失敗した隊のダメ上役は地元の人達の「案内人が必要だ」という声に対して「案内料が欲しいからそのようなことをいうのだろう」といって信用せず、案内人をつけないという暴挙に出て結局は遭難した。
また、この上役は数少ない生還者だったところが憎たらしい。さすがに責任を感じて自決したけど。
とにかく、この指揮官が言った言葉(作者のフィクションだろうが)は俺も肝に銘じるべしと思った。